ウエムラケイ
美しく響きわたる歌声が魅力のボサノヴァ美人シンガー
宮城県気仙沼市生まれ。父のステレオから聴こえてくるビートルズや歌謡曲をエレクトーンで弾くことが好きで、高校でクラシックギターを 握るもやがて音楽とは無縁の普通のOLになる。2005年、ボサノバギターを小泉清人氏に師事。奥深い内容の歌詞と響きの美しさにも心 打たれて弾き語りスタイルでボサノバを歌い始める。2011年、ピアノの松本茜トリオと共にフラの名曲をJAZZアレンジした企画アルバム「KUMUFURA JAZZ」にハワイ語で全曲ボーカル参加。JAZZプレイヤー達との共演を重ね自己の音楽性を高めていく。その後、声帯 結節を発症し歌うことができなくなるも復帰。歌える喜びと尊さを再認識した中で、自分名義のアルバム制作を決意。優しく包み込むような 透明感のある歌声と芯のある力強いギターに定評があり、ソロで弾き語りの他、デュオ~カルテット等で都内を中心に演奏活動中。
Official blog
ドゥーシ
2014.08.20release
XQDN-1061 ¥2,685+税
1人の部屋で。仲間と海辺で。月明りの下で。太陽の日差しの中で。眠れない夜も眠りたくない夜も優しく響くボサノバ。 初めて聴くのに懐かしく、なのに新鮮に聴こえるのはそこにサウダージ(郷愁)があるから...。
【CD】
1.おいしい水
2.ドラリセ
3.ビリンバウ
4.Fly me to the moon
5.ホマリア
6.彼女はカリオカ7.小舟
8.ワン・ノート・サンバ
9.ロマンスをもう一度
10.卒業写真
11.ゆるしてあげよう
12.月ぬ美しゃ
「メンバー」
ウエムラケイ(vo,gu)
長岡敬二郎(per)
田村さおり(Fl)
陽気で情熱的なブラジル人女性のように心躍り、友達のように親しみやすく、時に元気をくれる。そして一人、ふと心が疲れたときも手を伸ばせば幸せな気分になれる甘いデザートのような ...。そんな風に聴いてもらえるアルバムであって欲しい。 アルバムタイトル‘Dolce(ドゥーシ)’はブラジルの女性の名前‘。どぅーし’は沖縄の方言で「友達」‘。Dolce(ドルチェ)’と読めばイタリア語で「甘いデザート」。 ボサノバスタンダードを中心にJAZZ、J-POP、沖縄(八重山)民謡、また、ウエムラの音楽活動と共に歩んで来た小田急ロマンスカーCMソングのカバーなど、一見するとまとまりのない選 曲...。でもそこには一貫してウエムラケイが感じたサウダージ(郷愁)が流れている。弾き語りアルバムにするはずが、パーカッションに長岡敬二郎、フルートに田村さおりと、素晴らしいサポ ートメンバーに魅せられてタイトなTrioに。ティートックスタジオにて、金野貴明の技術による高音質録音。 ボサノバのキーワードでもある「サウダージ」(ポルトガル語)...それは、もう戻れないあの時間、あの場所、追い求めても叶わぬもの達...。正確な訳語は無くとも、ウエムラケイが歌とギタ ーに込めたサウダージを、聴く人それぞれの心、様々な時間や場所で感じてもらいたい。
最近、東京の音楽シーンで話題のボサノバ・シンガー、ウエムラケイのデビュー作の登場だ。暑い夏を快適に過ごすには、ボサノバを聴くのが一番。エアコンがなくても、涼しく爽やかな気分 になれる。今年はボサノバが誕生して56年目、アントニオ・カルロス・ジョビンが亡くなってから20年経つ。遂に日本人で、自然にボサノバが歌える女性が誕生したのだ。ケイは、ジャケット写 真通りの美人である。もぎたてのレモンのようにフレッシュで、そよ風のように爽やかな歌声を持つ。ポルトガル語の歌を自然に歌い上手い。ボサノバ特有の“サウダージ”も感じさせる。“サ ウダージ”とは、哀愁、やるせない想い、懐かしさ、郷愁の意味がある。彼女の歌声は、人の苦しみ、悲しみを癒す不思議な力がある。ギターもかなりの腕前でガッドギターのカッティングが心 地好い。ギターは、スペイン・マドリッドのベルナベ工房製の名器“アントニオ・ロペス”。その音色には明るい艶があり、音の立ち上がりが実にいい。ぜひ歌と共にギターの音にも注目してお 聴き願いたい。 ウエムラケイは、いかにしてボサノバを身につけたのだろうか?彼女は宮城県気仙沼生まれ。東京、埼玉育ち。5歳からヤマハのエレクトーン教室に通った。アニメ・ソングや新聞記者のお 父さんが聴いているビートルズなど弾くのが好きだった。女子高校では、マンドリン・ギター部に入り部長を務めた。そこには、100人を超える部員がいた。大学では、ギターの弾き語りのサ ークルに入った。ここで初めて人前で歌を歌った。トワエモア、オリビア・ニュートンジョン、ビートルズを歌った。就職してしばらくしてから、友人が参加する社会人ビッグバンドで、ジャズやボ サノバに触れた。ボサノバがケイの琴線に触れた。ふと耳にしたボサノバに強く惹かれ、ボサノバギターを小泉清人に師事。一生懸命に練習し急速に上手くなる。セッションやライブで腕を磨 くようになった。音楽関係者の目にも留まり、レコーディングの機会が得られたが、一昨年の11月、声帯を痛めてしまい、手術が必要と言われた。これは辛かった。大好きな歌が歌えなくなっ た。手術の予定だったが、奇跡的に回復し、手術をしなくてすんだ。再び歌い出し、遂にレコーディングした。
さてアルバム・タイトルは『Dolce』と書いて、“ドゥーシ”と読む。「Doralice(ドラリセ)」同様、ブラジルで女性の名前の一つ。イタリア語で読めば、ドルチェ(デザートのこと)となり、沖縄 の方言でドゥーシーというと、友だち(同志)のこととなる。収録曲は、すべてケイのお気に入りの曲。ボサノバを趣味として始めた頃から、誰に聴かせるでもなく、一人で自分の部屋で弾き 語りだけで幸せな気持ちになれた親友のような曲達である。すべての曲はウエムラケイが(歌とギターを同時に)弾き語り同時録音をしている。一切の修正がない。ギターをスライドする音、 歌の揺れ感もそのまま聴こえる。また「T-TOCレコーズ」によるこだわりのスタジオと録音技術で録られているので、歌とギターが自然に交じり合う弾き語りの空気感は得も言われぬ趣きと なってる。2曲は完全な弾き語り。他はフルートのデュオ、パーカッションとのデュオ、トリオと様々な編成で演奏。フルートもパーカッションも重ね録りは一切なく、まるでライブ会場で聴いて いるようなシンプルな作りになっている。おかげで、曲の良さも歌の良さも各楽器の良さもストレートに、温かくハートに伝わってくる。1曲目の「おいしい水」はアストラッド・ジルベルトが歌っ て世界中に広まった曲。アントニオ・カルロス・ジョビンとモラエスが書いた。ケイのガッドギターから始まり、軽快な歌が心地好い。田村のフルート・ソロも素晴らしく美しい。「ドラリセ」はブラ ジル出身のギタリスト、ローリンド・アルメイダとカイミが書いた。ウエムラのポルトガル語の柔らかな語感が素朴な味わいを出している。「ビリンバウ」はブラジルのギターの巨匠、バーデン・ パウエルが書いた曲。通常のボサノバとは一味違ったアフロ・サンバの響きがある。ケイの力強いギターと田村の名演が聴きもの。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、1962年、ジョー・ハネル がボサノバにアレンジして歌ったら大ヒットした。ケイはポルトガル語で歌い、とても魅力的だ。「ホマリア」とは巡礼のこと。レナート・テイシェイラの作詞作曲。ブラジルの田舎で歌われる素 朴な歌。人生に光が灯されるようなケイの癒しの歌が素晴らしい。「彼女はカリオカ」はジョビンとモラエスの黄金コンビが書いた曲。“彼女はカリオカ、歩く姿を見ればわかる。あんな優しい 人はいない”という恋人自慢の歌。ケイの甘いムードと柔らかい雰囲気がいい。また田村の綺麗なフルートが魅力。「バルキーニョ(小舟)」はホベルト・メネスカルが書いた曲。浜辺にあった 壊れた小舟を見つけて即興的に出来上がった。ケイが丁寧な歌唱でフィーリングを醸し出す。「ワン・ノート・サンバ」はジョビンが作詞作曲した。多くの人がカバーしている。ひとつの音を重 ねた平坦なメロディなのに、ジョビンが素敵なハーモニーを与えたので魅力的な楽曲になっている。やはりジョビンは天才だ。まるで早口言葉のような歌詞をウエムラケイが見事に歌いこな す。「ロマンスをもう一度」はご存じ小田急のロマンスカーのCMソング。アン・サリー、畠山美由紀、葛谷葉子(作者)など歴代アーティストがこの曲を育んで来たが、ウエムラケイも負けては いない。ケイの歌は出色の出来。素晴らしい歌声に深く魅了される。このケイのバージョンは未だCMソングとして使用されていないが、ぜひCMでも流して欲しいと思う。「卒業写真」は荒 井由実(現・松任谷由実)の初期の傑作。1975年の作品で、ハイ・ファイ・セットが大ヒットさせた。切ない歌声に心が揺れる。ポルトガル語で聴くのもいいものだ。「許してあげよう」はいろん な人がカバーしている佳曲。カエターノ・ヴェローゾもジョアン・ジルベルトも歌っているが、このケイ・バージョンは、特に好きになりそうだ。「月ぬ美しゃ」は、八重山地方に古くから伝わる民 謡だ。美しいメロディの中にどこかもの悲しさが漂うところが、ボサノバのサウダージ(“哀愁”)に繋がり、ケイは心惹かれたそうだ。ケイと田村の沖縄の笛(今回初めて吹いたそうだ)は、ま るで心を洗い流してくれるようである。ほんのりといい気持になってアルバムは終わる。デビュー作とは思えない見事な出来となった。次はぜひライブをご覧頂きたい。
(2014/06/30 高木信哉 / ライナーノーツより一部省略)